ヒメキジラミはカメムシ目(Hemiptera)キジラミ上科(Psylloidea)ヒメキジラミ科(Calophyidae)に属する昆虫の総称です。日本で記録のあるヒメキジラミは1属5種です。そのうち本州で記録のある4種の写真がすべて揃ったのでまとめてみました。
なお私はキジラミに関してシロウトで文献の一部を拾い読みしながらこの記事を書いておりますので、間違いもあるかもしれません。確かな情報は専門家によって書かれた文献をご覧になってください。
一般的な注意ですが
・ 以下で全長という用語は翅端までの長さです。キジラミの成虫は標本にして乾燥すると腹部が縮むので、体長ではなく全長が使われるようです。
・ キジラミの♂は♀より小さいようです。腹部先端が後ろに伸びていれば♀、背面側に曲がっていればオスです。
・ キジラミの多くが成虫越冬で秋が深まるにつれて体色が濃くなっていきます。
・ キジラミの成虫は羽化後しばらくするとホストを離れて分散するので、ホスト以外で見つかることもふつうにあります。
ヒメキジラミの特徴
翅脈はキジラミ科と似ていて、触角の先端の2本の剛毛が長いようです。
日本で記録のあるヒメキジラミ科
マンゴーキジラミ | Calophya mangiferae | マンゴー Mangifera indica | 琉球、東南アジア |
クロヒメキジラミ (キハダヒメキジラミ) |
C. nigra | キハダ Phellodendron amurense | 北海道、本州 |
セグロヒメキジラミ | C. nigridorsalis | ハゼノキ・ウルシ類 Toxicodendron spp. | 北海道〜琉球、台湾 |
ニガキヒメキジラミ | C. shinjii | ニガキ Picrasma quassioides | 北海道〜九州、韓国 |
マルアゴヒメキジラミ | C. verticornis | ヌルデ Rhus javanica | 本州、四国、韓国 |
このうち、マンゴーキジラミを除く4種が本州で見られます。偶然と思われますが4種のホストはどれも羽状複葉で似た雰囲気の葉っぱです。
簡易検索
色だけを使った検索表を示します。厳密な同定には文献を御覧ください。
1a 腹部が黄色から暗褐色 -> 2
1b 腹部が緑 -> 3
2a 触角全体が黄色、前翅は透明 ……… セグロヒメキジラミ
2b 触角の先端が黒、前翅はやや黄色い ……… マルアゴヒメキジラミ
3a 触角の先端が黒、成熟個体の頭胸部は茶褐色 ……… ニガキヒメキジラミ
3b 触角の先端半分くらいが黒っぽい、成熟個体の頭胸部は黒 ……… クロヒメキジラミ
セグロヒメキジラミ Calophya nigridorsalis Kuwayama, 1908
体色は黄色から暗褐色。触角全体が黄色。前翅は透明。額錐は横に広がる。全長は2mm前後。幼虫のホストはハゼノキ、ウルシ類。
北杜市ではウルシ、ヤマウルシはかなり普通に見られますが、幼虫は局所的に集団で発生しているようでした。なので幼虫を見つけるのは難しいです。成虫は4種の中ではもっとも多く見られます。
セグロヒメキジラミ 1. テネラル♀。2.成熟♂。3.成熟♀ お腹が大きいのは卵が詰まっているのだと思います。4.越冬後♀。
マルアゴヒメキジラミ Calophya verticornis Kwon, 1983
体色は黄色から暗褐色。触角の先端2節が黒。前翅は透明で薄い斑紋がある。額錐がほとんどない。全長は2mm前後。幼虫のホストはヌルデ(ウルシ科)。
北杜市ではヌルデはウルシと同じくらい普通に生えていますが、いまだ一個体しか見ていません。来年もう少し観察してみたいと思います。
マルアゴヒメキジラミ♀ 斜め下から見た写真になったので翅形や翅脈はわかりにくくなってます。
ニガキヒメキジラミ Calophya shinjii Sasaki, 1954
頭胸部は赤褐色で腹部が緑色。触角の9,10節(先端2節)が黒。前翅は透明。額錐は下に伸びる。4種の中では最も大きく全長は約3mm。幼虫のホストはニガキ(ニガキ科)。
北杜市ではニガキは多くはないもののポツポツ点在して生えており、本種の幼虫も複数の場所で確認しました。集団で発生している場合と疎に発生している場合があるようで、寄生蜂の存在が影響しているのかもしれません。寄生蜂についてはこちらを御覧ください。
ニガキヒメキジラミ 1.額錐は下に伸びる 2.幼虫 甘露に包まれているのを多く見た。ちなみにこの甘露はものすごく苦い。
クロヒメキジラミ Calophya nigra Kuwayama, 1908
頭胸部が黒で腹部は緑色。触角の9,10節が黒で3〜8節は茶褐色。前翅は透明。額錐は下に伸びる。全長約2.5mm。幼虫のホストはキハダ(ミカン科)。
キハダの同定ができてないので、いまのところ植物園でしか見つけていません。秋にも幼虫を見たので多化性かと思います。
クロヒメキジラミ テネラル 頭胸部はこれから黒くなるものと思われます。
参考文献
■Miyatake, Y (1992) A revision of the genus Calophya from Japan (Homoptera: Psylloidea, Psyllidae). Bulletin of the Osaka Museum of Natural History 46: 11-23. PDFダウンロード
■宮武頼夫・松本浩一・井上広光(2014)キジラミ類(カメムシ目)の絵解き検索.環境アセスメント動物調査手法, 24: 15-59.
■林 成多・宮武頼夫(2012)山陰地方のキジラミ図鑑.ホシザキグリーン財団研究報告特別号, (6): 1-97.
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